昆虫類238195110545117862522101715549999はじめに 1997年(平成9年)に「しまねレッドデータブック」が発行され、その後、2004年(平成16年)に第1次改訂、2013年(平成25年)に植物編、2014年(平成26年)に動物編の第2次改訂が行われた。昆虫については、門脇(2004)、淀江(2014)により概説が行われている。これらの概説は研究史を含めた概説となっており、完成度も高い。本改訂版の概説を担当するにあたり、全面的に内容を改めることとした。本概説に合わせて門脇(2004)、淀江(2014)も合わせて読んでいただくことをお勧めする。 前回改訂以降のトピックとして、普通種の急激な減少が挙げられる。2014年の改訂時までは、掲載種の原因として生息環境の消失が主たるものであった。都市化や農地・山林・河川・海岸等の開発・改変が進行するに従って、昆虫の生息する環境が減少または消滅し、それにともなって昆虫が減っていった。しかし、近年の状況は生息環境の変化を伴わないことも多い。例えば、植物食の昆虫が減少しているが、寄主である植物自体は存続しているような事例である。これは昆虫減少(insect decline)とよばれ、世界的な環境問題として認識されつつある。昆虫減少が注目されるきっかけとなったのは、ドイツの自然保護区において27年間で昆虫のバイオマス総量が75%以上減少していることが報告されたことである(Hallmann et al., 2017)。その後、欧米各地で同様に多くの昆虫が減少傾向にあることが報告されている。この報告を受けて、2019年にはドイツでは政府が「昆虫保護行動計画」を策定している。このような研究を実施するには、長期的なモニタリングがなされていることが前提である。 日本でも昆虫の減少、特に普通種の個体数の低減は、多くの愛好家や研究者が実感していることであるが、具体的なデータは限定される。国内ではトンボやチョウ類を対象とした長期観測が実施された例において、いくつかの種が激減したことや、増加した種もいることが報告されている。島根県の昆虫相の特色 昆虫相の特色は、総じてみると、暖温帯の照葉樹林と二次林に生息する種を主体として、里地・里山といった中山間地の昆虫が多く生息する地域と言える。さらに、自然度の高い海岸・沿岸に生息する昆虫が豊富であり、中国山地にはブナ帯の昆虫が残存している。また、河川や水田、ため池といった水域に生息する昆虫も減少傾向にあるが、全国的にみれば豊富な地域である。その一方、草原的な環境は局所的であり、減少傾向が続いている。 固有性については、島根県内に生息する固有種・固有亜種も存在する。その多くは、移動分散能力の低い地表性や水生の昆虫類(オサムシ類やチビゴミムシ類、ダルマガムシ類の一部など)である。また、離島である隠岐諸島があるため、比較的移動能力のある種についても固有性が認められる。具体的には、オキオサムシ、オキマイマイカブリ、オキヤコンオサムシ、オキナガゴミムシ、オキチャイロコガネ、アオハナムグリ島前亜種、セダカコブヤハズカミキリ島前亜種、ホシミスジ隠岐亜種、イチモンジチョウ隠岐諸島亜種などがいる。隠岐固有とされた種が、その後の調査によって本土側から確認される例もあるため、継続的な調査研究が必要である。・生息環境の多様性 島根県の本土側は東西に長く、昆虫の生息環境の特色として、沿岸の低地から中国山地まで起伏に富んだ地形が存在する。高山帯と潮汐の影響下にある干潟は無いが、岩礁・砂浜や砂丘、汽水域、低湿地、照葉樹林、広葉樹を主体とした二次林など、多様な環境が分布している。特に中山間地域が広いことも特色である。中国山地には限定的ではあるがブナ林が点在し、山陽側に比べて地形が急峻ではあるが、小規模な湿地などもある。中山間地域の昆虫類はあまり注目されていないが、実際に調査を行ってみると、実に多くの昆虫を確認することができる。特に地点を決めて継続的な調査では出現頻度の低い種も確認できることが多い。 隠岐諸島は、面積は本土側に比べると狭いが、主要4島だけを比べてもそれぞれ地形や植生が異なっており、生息する昆虫にも違いがある。特に島後と西ノ島は高地にミズナラ林があり、標高400ー600m程度ではあるが、ブナ帯の昆虫が生息している。また、岩礁海岸を中心として自然度の高い海岸も隠岐の特色である。・記録された種数 島根県で記録された昆虫の正確な種数は不明である。目録が整備されていないことが主たる原因ではあるが、都道府県単位で昆虫の種数を把握することは、情報源や公開方法の多様化によってますます困難になっている。これはすでに目録が整備されている地域においても同様である。情報を更新することの困難さは年々増加している。 筆者の手元には、国土交通省が公表している「河川環境データベース」の島根県内での調査データ(陸上昆虫および底生動物)および筆者が携わった昆虫相調査(ふるさと尺の内公園や宍道湖グリーンパークでの昆虫調査など)で記録された種のデータベースがあり、このデータを集計してみた。合わせて、蛾類については、三島秀夫氏よりデータの提供を受けた。その結果、7912種が確認された(2025年9月時点)。この種数の集計は不完全であり、特に種数の多い甲虫類やハエ類はカウントされていない種も多いと思われる。実際には9000種を超える昆虫が島根県からはすでに記録されているとみられる。表 島根県産昆虫類の種数(仮集計、2025年9月時点)イシノミ目シミ目カゲロウ目(蜉蝣目)トンボ目(蜻蛉目)ガロアムシ目ハサミムシ目(革翅目)カワゲラ目(セキ翅目)ナナフシ目(竹節虫目)バッタ目(直翅目)カマキリ目(蟷螂目)ゴキブリ目(網翅目)シロアリ目(等翅目)チャタテムシ目シラミ目アザミウマ目カメムシ目(半翅目)ラクダムシ目ヘビトンボ目アミメカゲロウ目(脈翅目)概説 昆虫類
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