しまねレッドデータブック2026
311/740

サンゴ類301301サンゴ類掲載種一覧準絶滅危惧(NT)○ニホンアワサンゴ□イボヤギ 日本の海は、海洋生物地理学的にインド−西太平洋区(熱帯区・亜熱帯区)、東亜区(温帯区)・北太平洋区(亜寒帯区・寒帯区)の3地理区に属しているが、東亜区はさらに暖温帯区・中間温帯区・冷温帯区に区分される。従って日本近海の海岸を含む浅海(水深200m以浅)における海洋生物は、熱帯から温帯、寒帯までのこの7帯区に分布している。このような背景から日本列島の各所では多様な生物分布が見られ、南北および日本海側と太平洋側の地域間には特異的な動物相が展開している。 本県の生物地理区は、島根半島日御碕を起点に南北に分けるように北側は中間温帯区、南側は暖温帯区の動物相が展開しており、島根県の海域にはそれぞれの海区の北限と南限の生物が共に分布していることになる。日本海は地球史的に成立してからまだ時間が短いため、一般的には生物多様性は他の海域に比べて低いとされるが、高温、高塩分の対馬暖流の影響を受けて、暖流系種の分布は太平洋側よりも高緯度まで広がっている。このように島根県の沿岸域は海洋生物地理学的特殊性が存在する。 国立環境研究所は、近年の海水温上昇に対応して日本の温帯域でサンゴ分布が北へと拡大している証拠を示し、その拡大速度が14km/年に達していることを明らかにしている。一方で、海洋生物の多くは生活史の中で海流に乗って移動が可能である事、さまざまな環境的要因によって10〜20年の周期で変動する一次的な“擬集団”か、明らかに“土着”の種群であるかの確認が必要な事、この点が今回のレッドデータブック掲載種として選定する重要なポイントになっている。 本県のサンゴ類は対馬暖流の影響が強い隠岐諸島、島根半島の岩礁域を中心に、八放サンゴの仲間であるヤギ目のイソバナやウミカラマツ、六放サンゴの仲間であるイシサンゴ目(非造礁性および造礁性)が透明度の高い海域に生息している。これまでの学術的調査によって明らかにされた隠岐諸島、島根半島日御碕地区のイシサンゴ目は8科19種に及ぶ(幸塚 2006)。ビワガライシ科フタリビワガライシ、ミドリイシ科ニホンアワサンゴ、アミメサンゴ科アミメサンゴ、ベルベットサンゴ、チョウジガイ科アオチョウジガイモドキ、センスガイ科ツボセンスガイ、ニイノタコアシサンゴ、キクメイシ科キクメイシモドキ、キサンゴ科ジュウジキサンゴ、□イソバナ□ムツサンゴ【記号説明】□:カテゴリー区分変更なしの種(3種)↑:上位のカテゴリー区分への変更種(0種)↓:下位のカテゴリー区分への変更種(0種)○:新規掲載種(1種)◇:情報不足からの変更種(0種)◆:情報不足への変更種(0種)【掲載順の準拠文献等】 原色検索 日本海岸動物図鑑Ⅰ 保育社キサンゴ、ヘンペイキサンゴ、ナガイボキサンゴ、イボヤギ、タバネイボヤギ、ムツサンゴ、ツボサンゴ2種(未同定)、シオガマサンゴ科ジュズサンゴ、シオガマサンゴである。このうち造礁性イシサンゴ類はニホンアワサンゴ、アミメサンゴ、ベルベットサンゴ、キクメイシモドキの4種で、塊状〜被覆状の生息が確認されたのみで、これらの種は生息群体数も少なく散在的な分布を示す個体群であり、内湾の浅海域あるいは外洋に近くても水深の深い環境に局所化する傾向が認められる。これらのイシサンゴ類は本県が生息北限と考えており、他の造礁サンゴ種よりも低水温や濁りといった厳しい環境条件下で生息できる耐性を持っていると推定される。 今回選定した八放サンゴ類のイソバナはやや広範囲に分布が見られる比較的安定した種であるが、水深2ー10m以内の浅海にも生息していることから容易に採集され、ネット通販による売買など人為的な影響を特に受けて近年生息数が激減している。また堤防建設、港湾浚渫作業等の海事工事、油汚染や漂着物によりその生息域が脅かされる危険性があることが選定した理由である。 六放サンゴ類のニホンアワサンゴ、イボヤギ、ムツサンゴの3種は、透明度の高い海域に見られることから、海洋汚染の指標生物として選定した。ニホンアワサンゴは本県が北限、ムツサンゴはシオガマサンゴとともには日本海北部に分布する種であることから、本県が南限と考えていることが選定理由である。イボヤギは広範囲に分布が見られる比較的安定した種であるが、イソバナと同様に採集などによる人為的な影響を受けやすく生息数が減少している。 隠岐諸島および島根県沿岸域は、日本海特有の海洋現象がこの海域に生息する温帯域の生物に与える影響は非常に大きい。南からの対馬暖流と北からのリマン寒流の勢いの強弱による海水温度変化、冬の季節風の吹き出しによる深海の冷水湧流の影響など、不安定な環境の中で、常に生息が脅かされるギリギリの状況の中で生き続けていると思われ、10〜20年の周期でかれらを見守っていく必要がある。島根県沿岸部のサンゴ類の生物地理学的研究は非常に乏しく、今後の調査次第では生息種の増加や生息域が拡大する可能性が多大である。特に、外洋から遮蔽された小さな湾や入り江、外洋に近くても水深が深く波浪による海中の攪乱の影響を受けない環境域におけるさらなる調査が期待される。(秋吉英雄)計4種計4種概説 サンゴ類

元のページ  ../index.html#311

このブックを見る