蘚苔類6196191.蘚類 島根県は、東部の安来市から西部の益田市までのおよそ200 kmにわたる細長い本土部と東経133°・北緯35°付近に浮かぶ隠岐諸島から成っている。本土部分の南部には中国山地が連なっており、鳥取・広島・山口の各県と接している。これらの山地には豊かな山林が育っている。島根県の蘚苔植物についての総括した報告書は見当たらないが、西中国山地の植物に関する学術報告(1966)によると、「本地域に産する蘚苔植物以上の植物は、蘚類200余種・苔類100余種・シダ植物90余種・裸子植物12種•被子植物750種である。これは広島・島根県下に産する全植物数の2/5ぐらいにあたるのではないかと思われる」と記載されている。調査地域が標高350m内外から最高1,346mの範囲であって、低海抜の渓谷部には、温帯性植物が多く、蘚類においてもマゴケ亜綱の多くの蘚類が群落を形成して生育している。しかしながら、これらの群落の中には、暖帯系や亜高山系の蘚類が混在していることが報告されている。例えば、フジハイゴケ、チャボスズゴケ、コセイタカスギゴケなどの群落がみられる。また、低海抜の渓谷には、暖帯系蘚類のソリシダレゴケ、ムジナゴケ、ナワゴケなどが観察されている。そしてまた、山頂付近には亜高山地帯に生育しているクロゴケが、渓谷の森林内にはイワダレゴケ、タチハイゴケ、マキハヘチマゴケなどの群落が観察されている。また、山地の森林の林床には、オオミミゴケの群落がみられる。この種はシキムヒマラヤ、台湾、日本西南部の高山に飛び石的に分布している蘚類で、亜高山帯でも稀にみられ、中国地方では珍しい蘚類である。クロゴケは県東部の標高950mの岩上にも生育していることが報告されている。イワダレゴケは出雲部と石見部の境目に2.苔類・ツノゴケ類 県内産の苔類・ツノゴケ類に関する記録は島根県自然保護基本調査・中間報告(1972)で益田市高島の苔類・ツノゴケ類16種、第33回日本生物教育会全国大会記念誌「島根の生物」(1978)に113種、大万木山の蘚苔類(その1)(岡本、1975)に20種、「日本産苔類図鑑」(井上、1974、1976)に30種、「島根県大百科事典」山陰中央新報社刊¢1982)に図解49種、同属種43、隠岐諸島の苔類(井上、1985)に72種がある。これら、県内産の苔類・ツノゴケ類については、「島根県産のタイ類・ツノゴケ類」(下瀬、2011)に、まとめられている。 これに未発表の資料を加えてまとめた県内産苔類は31科56属152種、ツノゴケ類は2科5属7種となっている。これは日本産苔類の総種数の約1/4。ツノゴケ類は約1/2にあたる。目種別にしてみると、ウロコゴケ目117種、コマチゴケ目1種、フタマタゴケ目17種、ゼニゴケ目17種となっている。植物体の茎や葉の区別が明瞭なウロコゴケ目のコケが約8割を占めている。ツノゴケ類7種はツノゴケ目。 井上(1985)は隠岐諸島の苔類フロラで特記すべきこととして、典型的な周極要素(寒地系)と目されるものが1種も含まれていないこと、また特異な点として、県内の他地域では知られているゼ古刹(寺院)での優占種をみると、地上ではウマスギゴケ、クロツリバリゴケ、アオシノブゴケ、トヤマシノブゴケ、ホソバオキナゴケ、ハイゴケなど、石垣や石灯籠の上ではギボウシゴケ、ヒジキゴケ、ネジクチゴケなどである。ニゴケ属が隠岐諸島では完全に欠如していることが指摘されている。ゼニゴケ属のコケはどの種も鼓形の多細胞の無性芽を作ることはよく知られている。この無性芽が履き物などに付着して運ばれる可能性は強い隠岐諸島であるが、どんな環境要因がゼニゴケの進入を阻むのか興味深い課題である。 コケ植物の分布に大きく影響するのは、気温や水分•湿度であることは高等植物と同じであるが、植物体が小さいコケは微細な気候的な条件にも支配されやすいという。また、コケは着生基物に支配され基物によって着生する苔類も異なる。この地方に多いヒメトサカゴケのように岩上、崖面、樹幹、朽木と着生基物が多様なものもある。 隠岐諸島の苔類は、県内の他地区の低地や山地の苔類と共通している。このことは沿岸部の常緑広葉樹林、背後に中国山地の落葉広葉樹林帯の山地をかかえている県東・中・西部地区の苔類に大きい相違はないように思える。 県内産の苔類を隠岐諸島に準じて3つの分布型にまとめてみると次のようになる(この中には隠岐諸島の苔類も含めてある)。⑴ 東南アジアとの共通種(この地域の種が分布域を北上させて、県内にも分布しているグループ) 特に気温や湿度の影響を強く受けている種が多い。このグループは国内では、最寒月の平均気温5℃の等温線より南に東南アジアの苔類と共通なものが多いという。県内では沿岸部で浜田5.8℃、益田5.4℃でわずかに上回り、松江4.2℃、隠岐西郷は4.4℃でおよばない。温度だけでみると県東部より西部に東南アジア系のコケが多いように考えるが、苔類の分布に影響する他のそびえる三瓶山の原生林内の腐植土上にフサゴケやフトリュウビゴケと共に大きい群落を形成している。県内には平地から標高1,200mまでの間に強い酸性(pH3ー4.5)の多湿地が点在しており、そこには北周極要素のオオミズゴケ、ハリミズゴケの2種が、また水のしみ出る岩壁面や岩棚には熱帯要素のホソべリミズゴケが県下5カ所で観察されている。このホソべリミズゴケは懸崖性のミズゴケである。また、県内には渓谷や滝が多くみられるが、水しぶきのかかるような岩上にはクマノゴケが生育しているところが数カ所あるが、量的にはきわめて少ない。島根県は林業県でもあるが植林されたスギ林のスギの切り株上に生育しているハイゴケやトヤマシノブゴケの中にウチワチョウジゴケが観察されることがある。この仲間は配偶体の葉や茎が退化し、胞子体だけが生育するというまれなコケである。県内には神社仏閣が多い。石垣上にはギボウシゴケ、ヒジキゴケ、ミノゴケなどが、砂をひいた地上にはヤマトフデゴケ、ヒョウタンゴケ、シモフリゴケ、スナゴケ、やや湿った地上にはトサカホウォウゴケ、コバノチョウチンゴケ、ツルチョウチンゴケなどがみられる。境内にはスギの大木があり、その基部にはホソバオキナゴケ、カガミゴケなどが群落を作っている。山間部にある神社仏閣の石垣の隙間には、エビゴケ、アブラゴケが日陰のやや湿った地上や腐葉土上にはヤノネゴケ、ヒメハイゴケなどがみられる。県内のある古刹(寺院)での蘚類調査によると、スギゴケ科3属3種、ギボウシゴケ科3属5種、ヒラゴケ科1属3種、シノブゴケ科2属3種、アオギヌゴケ科5属8種など21科35種51種の生育が報告されている。この概説 蘚苔類
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